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[企業価値 1.9 兆円!] Ginkgo Bioworks とは (2021年)

今回は、iGEMや合成生物学分野に大きな影響を与える企業であるGinkgo Bioworks (ギンコ・バイオワークス)について紹介します。

この企業は、2021年5月にSPACを利用した上場を発表しました。企業評価額が総額175 億ドル(1.92 兆円、1ドル=110円換算)にもなり、業界内外から大きな注目を集めている企業です。今回はそんな企業について、”どのような経緯で創業時されたのか”と、”現在の主な活動について”を、まとめました。

本記事では後編部分である、”現在の主な活動について”について紹介します。前編部分である、”どのような経緯で創業時されたのか”については、こちらをお読みください。


※本記事は、特定銘柄および株式市場全般の推奨や株価動向の上昇または下落を示唆するものではありません

概略

Ginkgo bioworksは、合成生物学分野におけるAWSと評されるようなプラットフォーマーを目指している企業です。

合成生物学では、生物システムをデザインすることで、必要な物質やシステムを作成することができます。しかし、その行程は、DNAシークエンス、DNA配列の設計、DNA合成、生物システムを用いた実証実験、作成された物質の製品評価と、多くの段階が必要です。さらには、それぞれの段階で、技術限界を突破する必要があったり、コストを最適化するための手法が求められます。

Ginkgo bioworksは、それらすべての面でのツールを提供します。

ハード面では、独自のDNA合成システムをもち(2017年にDNA合成会社であるGen9を買収)、それらを高速で検証可能な自動ロボットが導入されている生物実験施設などを持ちます。ソフトウェア面では、多くのパートナーとも連携しながら、大規模なDNA配列情報のデータベースを持ち、さらに日々実験で生み出されるデータを解析し蓄積することで、よりDNA設計を容易にし、目的に最適化することを可能にします。

Ginkgo bioworksは、2008年のスタート当時は、他の多くのSynbio業界のプレーヤーと同様に、個別の物質を作成することに注力していました。
創業当時のことについては、こちらをお読みください。

そこから、事業の方向性からピボットし、プラットフォーマーを目指しました。しかし、個別の物質を作成し、それらを有効活用することを忘れてはいません。Ginkgo bioworks自体は、プラットフォーマーを目指しつつ、各領域に対してスピンアウト企業を生み出したり、パートナーシップを結ぶことで、それぞれの分野に特化することを目指しています。

注目の関連企業

その中でも、すでに大きな注目を集めている企業が、3つあります。

Joyn Bio - 農業分野に特化したスピンアウト企業
Motif FoodWorks - 食品分野に特化したスピンアウト企業
Synlogic - 製薬分野に特化したコラボレーション企業 

これらのスピンアウト企業やコラボレーション企業は、Ginkgo bioworksのプラットフォームを活用することで、目的の市場との調整に完全に集中することができます。それらの結果、素早いサイクルで商品を生み出すことを可能にする可能性があります。

さらに、その領域でのトップ企業とうまく連携することで、先人たちのノウハウを高速で手に入れていることが特徴的です。

Joyn Bio - 農業分野に特化した企業

Joyn Bioは、2018年3月にBayer と Ginkgo BioworksによってJoint Ventureとして設立されました。彼らは、合成生物学的手法によって、持続可能な農業を行うことを目標にしています。

近年の事業 - 窒素固定の社会実装

Joyn Bioは、持続可能な農業を目指す上で、最初のターゲットして窒素固定を選択しました。

近代の農業の発展で、合成窒素肥料を使用することで、窒素が農業生産性に大きな影響を持つことがわかりました。しかし、合成窒素肥料の大量合成は、環境悪化を進めてしまうという側面も持っています。
そこで彼らは、窒素固定可能な微生物を見つけ、穀物と共生関係を持つことができるように、合成生物学手法を用いて、微生物を改変することを目指しています。

強み

Joyn Bioの強みとしては、Bayer と Ginkgo Bioworksの両者の豊富なリソースを自由に使用できることにあります。例えば、いままで積み上げられtきた10万株以上の微生物株のデータベースを使用することができます。それらから発見したことを、Ginkgo Bioworksで生物実験を行うことを素早くできます。それらのテストも、業界最大手であるBayer のサポートを受けることができます。このように、Joint することで、合成生物学的な側面を実社会応用するための道筋を描きやすくなります。

参考文献

HP

Motif FoodWorks - 食品分野に特化した企業

Motif FoodWorksは、2019年2月にGinkgo Bioworksから独立する形で設立されました。彼らは、新しい体験をもたらす植物ベースの食品を開発することを目指しています。Ginkgo Bioworksと協力することで、合成生物学的なアプローチを進めると同時に、多くの食体験に関するアカデミアのパートナーと協力しながら、新しい食体験の可能性を模索しています。

近年の事業 - 肉, 乳製品, 新規体験

Motif FoodWorksは、新規の食体験の開発を行うために、まずは肉と乳製品の開発を進めながら、全く新しい独自の食体験を目指した研究開発を行なっています。
肉と乳製品は、すでに大きな市場が見込まれるような多くのプレイヤーが存在する領域です。



強み

Motif FoodWorksも大きな強みは、Ginkgo Bioworksとの連携です。すでに大きな注目を集めている人工肉や乳製品の市場においては、他のライバルに比べ、技術的に先行しているとは考えづらいが、スケールアップや高速な合成生物学実験を行える点で挽回するチャンスは十分にあります。さらに、多くの食体験に関する専門家(大学研究者やミシュランシェフなど)と共同で開発をすすめていることから、まったく新しい食体験を生み出す可能性があります。

参考文献

HP
プレスリリース (植物ベースの霜降り肉, 植物ベースの伸びるチーズに関するもの)

Synlogic - 製薬分野に特化した企業 

Synlogicは、2013年秋に、Atlas Venture (VC, ベンチャーキャピタル)のシードプログラムの一環として、Dr. Mahadevia (当時 Atlas Venture)、Dr. Jim Collins、Dr. Timothy Luらによって共同創業されました。(現在Dr. Mahadeviaは、バイオ創薬会社のSpero Therapeutics のFounder&CEOです。)

Synlogicは、遺伝子編集した微生物を薬として使用することを目指している企業です。2019年には、Ginkgo Bioworksから8000万ドルの投資を受け、薬の大量生産や開発のためにGinkgo Bioworksとのコラボレーションを発表しました。

近年の事業 - 治療薬の開発

近年のSynlogicは、フェニルケトン尿症 (PKU, Phenylketonuria)に対する治療薬の開発が最も注目されています。

PKUは、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH, Phenylalanine hydroxylase)をコードする遺伝子の変異により引き起こされ、それが原因となり、フェニルアラニンが血液と脳に蓄積され、神経学的欠損や感情的および認知的問題を引き起こす可能性がある疾患です。(フェニルケトン尿症に関するSynlogicのプロジェクトページ)

彼らは2018年に、Nature Biotechnologyで “Development of a synthetic live bacterial therapeutic for the human metabolic disease phenylketonuria”という論文を発表し、フェニルケトン尿症に対して、遺伝子編集した微生物を薬として用いることの可能性について示しました。

この論文をベースにして開発されたSYNB1618という薬は、E. coli Nissle (すでにさまざまな胃腸疾患の治療に使用されており、ヒト体内でコロニーを形成せず、摂取後1週間でヒト体内から検出されなくなることが知られている細菌)をベースに、フェニルアラニンを分解するために必要ないくつかの酵素が、適切な環境下(低酸素状態であるヒトの腸)で発現するように、ゲノムに必要な情報を書き込まれた細菌です。(詳しいゲノム情報は論文 (Sup Fig. 10 参照))

2021年では、SYNB1618に関する治験がPhase2まで進行しており、順調に開発が進んでいます。(薬の開発の進行状況に関するページ)

強み

創薬会社として、先端の科学的な知見と技術力を持ち、治験のフェーズを順調に進んでいることは、競合他社に対して大きなアドバンテージになります。

さらに、Ginkgo Bioworksとコラボレーションを行うことによって、これらの研究開発や量産化に必要な最先端なプラットフォームを自前で用意することなくアクセスできるようになり、起業の成長のスピードが加速することが期待できます。

参考文献

HP
Development of a synthetic live bacterial therapeutic for the human metabolic disease phenylketonuria


まとめ

このように、Ginkgo Bioworksは、密な関係をもつスピンアウト企業やコラボレーション企業を各分野に作ることで、全方位に確実な影響力を担保した状態で、合成生物学分野の生産に関するプラットフォーマーを目指します。さらに、プラットフォーマーとして、Modernaと協力し、mRNAワクチン生産の最適化に協力するなど、徐々に影響力の強さを示してきています。

データ駆動型科学が注目を集める中、個別の物質に執着することなく、データのハブを目指す戦略は非常にクレバーな立ち回りであると感じます。その決断がどのように転ぶかはだれにもわかりませんが、これからの合成生物学分野の産業界を大きく盛り上げてくれることを期待したいと思います。

参考文献

Ginkgo Bioworks HP
If Biology Can Build It, They Will Come: Ginkgo Bioworks Is Laying The Foundation For The $4 Trillion Bioeconomy
DNA合成で「食品革命」を起こすバイオ企業、Ginkgo Bioworksの挑戦