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最終更新日 : 2021年10月27日

iGEMにおける安全性に関する基本方針について

Dear iGEMers
This website is operated in collaboration with iGEM Gifu and iGEM Qdai. This article have compiled information about iGEM in Japanese to provide a new information resource for new Japanese iGEMers in the future. 
Let's go iGEM Qdai wiki and iGEM Gifu 2021 wiki !

iGEMは「合成生物学の世界大会」なので、毎年大会を開催するたびに世界各国で大量の遺伝子組み換えパーツが作製されます。そのためバイオセキュリティに関する教育活動が盛んに行われています。日本国内で行われるバイオセキュリティに関する教育ではカルタヘナ法が有名です。ただiGEMではカルタヘナ法に記載されていることに限らず極めて幅広い範囲での「安全」に対する教育が参加者に行われています。本記事では、そのようなiGEMにおける「安全性」に対する考え方と実際に行われている活動について紹介します。

安全性に関する取り決め

まず大前提としてiGEMでの安全性に関するルールはiGEM内でのルールであり、日本国内でiGEMを行う場合は所属機関で然るべき遺伝子組み換え実験に関する許諾を取得する必要があります。

例えば岐阜大学の場合、大腸菌に適当な安全と考えられるバクテリアの遺伝子を挿入したプラスミドを導入する研究であれば、BSL1の教室や実験室を用意し、その研究に関する申請書とカルタヘナ法に関する講義を受講する必要があります。

参考: 日本におけるカルタヘナ法についてはこちら

iGEMのプロジェクトはPolicyにより制限されている

一見、iGEMのプロジェクトというと参加者が自由にテーマを選んで良いと思われがちですが、実はいくつかの制限があります。

iGEMはSafety PoliciesとSafety Rulesと呼ばれる安全性に関する提言とルールを発表しています。PoliciesにはiGEM参加者が守るべき提言が記載されており、Rulesには提言をもとに安全性に関する大会参加のルールが具体的に記載されています。

今回はPoliciesをもとにiGEMで行われている取り決めについて考えていきたいと思います。

参考: iGEM 2021の公式 Safety Policies はこちら

Policiesの内容

Policiesは8個の提言から構成されています。しかし、8個の提言のうち、1つは新型コロナウイルスの影響でiGEM大会の参加方法として加わったTwo-phase project (2020年にあまり実験ができないチームがプロジェクトのコンセプト化を1年目に行い、2年目に実験を行う参加方法)に関するものなので、実際には7つの提言が安全に関する提言になっています。

以下7つのポリシーを順番に紹介していきます。

Do Not Release policy/Deletions as modification

この項ではDo Not Release policyとDeletions as modificationの2つを紹介します。

Do Not Release Policyは遺伝子組み換え生物 (GMOs) を実験室の外に持ち出すことを禁止する提言です。この提言ではReleaseについて具体的な事柄が記載されており、大まかに5種類のReleaseを禁止しています。

  • 自分たちのチームが作成したGMOsを自然環境(土壌や湖沼、海洋、森林など)に持ち出すこと。
  • 自分たちのチームが作成したGMOsをヒトの体に入れたり、ヒトに直接接触させたりすること。
  • Safety and Security committee (安全委員会) の事前の許可なしに、自分たちのチームが作成したGMOsを用いた製品を研究室の外に持ち出すこと。
  • 自分たちのチームが作成したGMOsを含むデバイスを自然環境に入れること。
  • 自分たちのチームが作成したGMOsを使用してつくられた食べ物(パンやビールなど)を食べること。


近年のiGEMでは実用化を目指しているプロジェクトがいくつも立ち上がっており、2021年のiGEM Japan輪読会で紹介されたSZU-China 2019チームが行ったRNAiを用いた外来生物の駆除が一つの例です。

参考 : SZU-China 2019チームのプロジェクト紹介はこちら
https://2019.igem.org/Team:SZU-China

GMOsそのものを持ち出して利用するプロジェクトは少ないものの、GMOsに適当な生産物を作らせて抽出し、それを実験室の外で利用するというプロジェクトは多く見られます。

3番目のルールにあるGMOsを用いた製品にはGMO由来生産物を抽出したものも含まれるので、このようなプロジェクトを行い、実際に影響を評価したい場合には事前にiGEMの安全委員会に申請を行い、許可を取得する必要があります。

Deletions as modification

次にDeletions as modificationについて紹介します。

Deletions as modificationの定義として適当な生物の配列をDeletion(欠失)したものはGMOsに入らないという場合があります。しかし、iGEMではこれを認めず、それらもGMOsとして扱い、Do Not Release policyを適用するというものです。

No human experimentation/Human Subject research

この項では2つの提言を紹介します。

まずNo human experimentationです。iGEMではヒトを使った実験は禁止されています。ヒトを使った実験にはGMOsと直接ヒトが接触することと明記されています。しかし、GMOsが生産したものを抽出したものであれば、GMOsが完全に含まれていないことを示すことができ、尚且つ安全委員会の事前許可を得ることができれば実験可能な場合があります。

またヒトを使う実験にはヒトから取得されるサンプル (血液、人糞など) も含まれます。iGEM Gifuは2021年大会では唾液を用いたストレス評価系の構築に挑戦していますが、もし仮に今年のプロジェクトがうまくいったとして来年以降もプロジェクトを継続して、唾液を使うことになれば、安全委員会に事前許可を申請することになります。

参考 : iGEM Gifu 2021チームの紹介はこちら
https://2021.igem.org/Team:Gifu

さらにヒトに関係する研究として、Human Subject researchがあります。Human Subject researchには例えばインタビューや人に対する調査が含まれます。社会との関わりを強く求められるiGEMではHuman Practice活動として、このような研究を行うチームが散見されます。

Human Subject researchを行う場合には調査が行われる国での倫理規定や法律をよく学び遵守すること、また各大学や所属先にある”Institutional Review Board” (IRB)または“Research Ethics Committee” (REC) から許可を取得することが必須条件となっています。

Gene drives

Gene drivesは生物のゲノムにドライブ配列と呼ばれる特殊な配列を組み込み、本来50%の確率で遺伝していく対立遺伝子を50%以上の確率で遺伝させるバイオテクノロジーのことです。

Gene drivesの有名な例としては子孫が全て雄になる蚊を作る技術があります。この技術は生物や環境に与える影響が極めて大きいことから、特に厳しいルールが定められています。そのルールの中では、事前許可だけでなく、実験環境が整えられていること、およびパーツ提出に際して機能性のあるGene driveのパーツを提出しないことが求められています。

Anti-microbial resistance (AMR)

抗生物質耐性菌の増加は今世紀の一つの危機になっています。抗生物質はバクテリアのセレクションに用いられており、遺伝子組み換えには欠かすことのできないツールです。

iGEMでも最もスタンダードなベクターとしてpSB1C3 (クロラムフェニコール耐性遺伝子の入ったバックボーン) とpSB1A3 (アンピシリン耐性遺伝子の入ったバックボーン) が配布されていますが、チームはこれらのバックボーンが環境に流出しないような責任ある行動が求められます。

またAMRで重要なThe World Health Organization's list of Critically Important Antimicrobialsに関連するパーツを利用する場合は事前に申請が必要になり、大会が提供するデータベースでは要注意パーツとしてフラッグが立てられています。

参考 : The World Health Organization’s list of Critically Important Antimicrobialsはこちら

Use of animals in iGEM projects

iGEMでは動物実験を行うことが可能ですが、こちらも事前の申請が必要になります。

iGEMにはホワイトリストと呼ばれる使用できる生物を明記したリストがあり、動物 (多細胞生物) はホワイトリストに明記されていないことからチェックインと呼ばれる事前申請が必要な生物に該当します。

ホワイトリストに記載されていない生物は基本的に用いることが難しい生物です。特別な許可を取得することで可能とされていますが、大会参加にあたり避けるのが無難な選択と言えます。動物実験を行う場合はホワイトリスト外生物利用の申請に加えて、動物実験実施に関する許可申請が必要です。

参考 : ホワイトリストはこちら
参考 : チェックインフォームについてはこちら

ホワイトリストで大部分を占めるリスクグループ1の生物種や、その他のリスクグループに属する生物種は以下の通りです。

微生物 リスクグループ1 リスクグループ2 リスクグループ3 リスクグループ4
研究室 安全レベル1 安全レベル2 安全レベル3 安全レベル4
程度の説明 健康なヒトの成人に病気を引き起こさない。 ヒトに病気を引き起こす可能性があるが、治療または予防が可能。 ヒトに重篤な疾患を引き起こすが治療法とワクチンが存在する可能性がある。 ヒトに重篤な疾患を引き起こすが治療法とワクチンが存在する可能性がある。
作業領域 オープンベンチ バイオセーフティキャビネット クラス3バイオセーフティキャビネット 全身のアイソレーションスーツ
大腸菌K-12、S. セレビシエ(酵母)、乳酸菌、枯草菌 レンサ球菌、ヘルペスウイルス、ほとんどの乳類細胞系 エルシニア病害虫(黒ペスト)、HIV、SARSウイルス エボラウイルス、マールブルクウイルス、ラッサウイルス


iGEM2021”Safety and Security Hub Risk Groups”
(https://2021.igem.org/Safety/Risk_Groups)より作成(2021年10月時点)


動物実験にあたり、3Rの原則を守ることが求められます。

参考 : 3Rの原則についてはこちらから

おわりに

本記事ではiGEMにおける安全性に関する提言を紹介しました。今回は紹介していませんが、iGEMでは研究の軍事利用に関するDual Useやバイオセーフティに限らず実験そのものの化学的安全性を教える教育プログラムや動画が用意されています。

日本国外からのチームが参加することから、日本に限らない世界で通用する科学者倫理を少し勉強できるというのも”i”GEMならではの文化だと思います。さらに気になる方は是非調べてみてください。