iGEMのチーム登録費用は高いか
まず始めに、iGEMは無料で参加できる大会ではない。NPO法人が開催している大会にはなるが、本当にNPOか疑いたくなるレベルで参加費用は高い。
''' The International Genetically Engineered Machine (iGEM) Foundation is an independent, non-profit organization dedicated to the advancement of synthetic biology, education and competition, and the development of an open community and collaboration. '''
それはさておき、今回はiGEMでかかる参加費用が高いかどうかを金額的な話ではなく、受けられるサービスと天秤にかけて検討してみたい。 そこからiGEMでかかるお金は高いかどうか独自に論じてみようと思う。
※本記事は、iGEMerにより、2019年年末に書かれた記事をアーカイブしたものになります。
目次
参加費用
まず第一に iGEM の参加費用の話を考える。iGEM には大きく分けて 2 種類の参加費用がある。1 つがチーム登録費である。iGEM に参加するためのチームを登録する費用になる。例えば、岐阜大学チームなら iGEM GIFU を登録するためにかかる費用となる。それが
Regular registration: $5000 USD (until April 2)
実に 50 万以上。遅れて登録するなら時期によるものの、さらに 5500 ドル、6000 ドルと上がる。このチーム登録費が払えずに辞めていく iGEMer を幾度となく見てきた。学生に 50 万はきついぜ。。。
続いて、2 つ目が個人登録費である。個人登録費とは iGEM チームに参加しているメンバーが国際大会 Giant Jamboree に参加するための費用のことである。要は学会参加費みたいなものであろう。これが
Regular registration: $745 USD
そう、つまり大会会参加費用だけで 8 万円ということになる。ちなみにこれも登録が遅れると 845 ドルになる。これが高すぎて、Giant Jamboree の参加を見送る iGEMer を幾度となく見てきた。(デジャブ)
サービスと天秤にかけてみる (個人登録費編)
天秤にかけるまでもない。高い。提供されるお昼ご飯は正直美味しくない。これから参加する人たちに声を大にして主張したいのは、2, 3 日目あたりで出されるマカロニのよくわからないご飯には手を出すなということである。提供される飲み物、食べ物で美味しいのはリンゴ、コーヒー、水。
なお、サービスは置いておいて、大会そのものは非常に面白く、各チームの発表を無制限に聞けるというのは 8 万に値するかと思う。世界トップレベルの学生が集い、ディスカッションするというこの空間は 8 万ではむしろ安いと思うし、この数日で学べることは教科書数冊分にもなると思う。それを知識として吸収できるかは各人によるが、多少高くても参加した方がいい。
一所懸命 iGEM をやった人からすれば、この大会に参加することは人生におけるマイルストーンになると思う。Act socially. 優秀な日本人に典型的に欠けている部分だと考えている。自分の研究を発表しダメ出しされる機会は非常に恵まれている環境であるし、同年代のトップレベルを知っておくことは非常に肝要なことだと僕は信じている。
サービスと天秤にかけてみる (チーム登録費編)
さて、本題に入ろう。チーム登録費が高いかどうかの話を考えてみる。50 万強の元はサービスで取れるだろうか。 結論から行こう。100%50 万以上のサービスを受けることができる。
このパートを 2 つに分けたいと思う。1 つは iGEM からのサポート、もう一つは iGEM を支える企業からのサポートである。
iGEM からのサポート
多くのチームは利用しないかもしれないが、チーム登録を終えると iGEM からは一部試薬と大量のプラスミドが送られてくる。通常、あのようなプラスミドセットというのは非常に高価であり、さらに iGEM では過去のチームが成果を出しているので、各プラスミドごとにデータが閲覧できる。
また、定量評価を行うためにの試薬とサポートを受けられる。フルオレセインやシリカなどを利用することで、単にマイクロプレートリーダーで蛍光を測定するだけでないデータが得られる。さらに、研究を永久に閲覧できるように隔年ごとにサーバを利用する権利 (Wiki を書く権利)が与えられる。当時はあまりこの点に価値を感じなかったが、オープンソースが求められるこの時代に利用が保証されているサーバがあるのは非常に大きいと考えている。
企業からのサポート
iGEM に参加するチームを応援する企業は実に多い。 日本を代表する iGEM 応援企業としてコスモバイオ様を挙げたい。コスモバイオは毎年各 iGEM JAPAN チームに 10 万弱の支援をしてくださっている。 生物ロボットコンテスト(iGEM)応援団 を通して、iGEM をおよそ 10 年に渡って支援している。当方の知るところ、日本企業でここまで幅広く iGEM を支援している企業はコスモバイオだけである。
オフィシャルスポンサーからのサポート
続いて、世界に目を広げてみる。iGEM HQ のオフィシャルスポンサーとして iGEM を支えている企業は以下の通りである。 https://igem.org/Sponsors
このうち、当方が利用したことのある神サービスを紹介していく。もしも、当方が科学者になった場合はこれらの企業のプロダクトを積極的に買いたいと誓っている。以下以外にも MATLAB の無料ライセンスや各社プロダクトのディスカウントがある。非常に素晴らしいプログラムだと思う。
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IDT と Twist Bioscience
IDT と Twist Bioscience は完全無料 (送料も無料) で DNA の完全合成サービスを行ってくれる。2019 年大会ではトータル 30 kb (IDT: 20 kb, Twist Bioscience: 10 kb) のサービスをしていただいた。完全合成を利用したことのある人なら分かるかと思うが、フルに利用すれば正直これだけで 50 万弱になる。iGEM のプロジェクトを半年で終えるためには利用しないといけないサービスとも言える。
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Promega
毎年 10 万弱の試薬サポートをしていただいている。ポスターを見るとほとんどの iGEM チームのスポンサーになっているようである。Promega の神プロダクトである GoTaq を支援いただけるのは非常にありがたい。毎年 Excel でシートを作り、支援を協力いただいている。
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New England Biolabs
今年度初めて支援いただいた。iGEM Program があるようでネットで検索したら出てきた。試薬会社のドンとも言える NEB からは制限酵素をいただいた。NEB の試薬はいいイメージしか無い。
ノンオフィシャルスポンサーからのサポート
iGEM のオフィシャルスポンサーでは無いが、iGEM チームをサポートしてくれる企業もある。
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SnapGene
DNA シーケンス後のアラインメント、プラスミドマップを作る際に欠かせないソフトウェア。GUI で使えるので、誰もで自由に使える。無料ライセンスを提供するプログラムを行っている。
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Arbor Biosciences
Cell-free などを売っている会社。公募制だが、チームとして選ばれると 30 万円分まで試薬支援してくれる。
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Labfolder
ELN (Electric Notebook) の無料ライセンスを提供してくれる。電子ノートを使うと iGEM チームの課題の一つ、実験の進捗のシェアが楽になる。
まとめ
以上の通り、iGEM をやる人を応援してくれる企業はたくさんある。50 万は目先では高いが、参加することで得られるものは非常に大きい。 50 万がどうやって使われているのか分からない。HQ はすごい儲かっている (?) iGEM を応援する企業は非常にたくさんある。よく調べてみると良い。

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